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第十六話 共闘

Author: 文月 澪
last update Last Updated: 2025-12-08 08:48:56

 そうこうしているうちに胴塚へと着いた。

 優斗は初めて夜にこの場所を訪れたが、昼間とは違う異様な雰囲気に息を呑む。

 辺りを包む冷気と妖蟲は変わらない。ただ、岩が鼓動するかのように明滅しているのだ。

「なんだ……あれ」

 思わずそう呟くと律が横から顔を出した。

「あれね、やばいって合図。もうすぐ封印が解けちゃいますよ〜って」

 そう言いながら、いそいそと刀を取り出す。

「今日は夜戦と、あと共闘の練習ね。初めての共同作業だよ。照れちゃうね」

 テヘッと舌を出す律に優斗は無視を決め込んだ。それでも「んもう! 照れ屋さん」と言って揶揄からかってくる。

 それも無視して優斗は問いかける。

「手順は?」

 短い言葉に律は不貞腐れながらも答えた。

「まずは俺が祝詞を唱えるから、化け物が出たら攻撃して。今日は俺も手ぇ出すからね。俺まで斬らないでよ?」

 それに首肯で返すと刀を佩く。

 つかに手をかけ、抜刀の構えをとると視線を交わす。

 律が奏上を始めると間を置かずにそれは現れる。まるで豚脂ラードを思わせるブヨブヨで脂肪のような塊の球体がくうに漂っていた。

 球体それは震えながらゆらゆらと揺れている。

 一際大きく体を震わせたその瞬間。

 まばたきの間に優斗の眼前に迫る球体に虚を突かれる。

 上半身を反らし間一髪かわし、素早く態勢を立て直して抜刀すると一直線に駆けた。

 真一文字に薙ぎ払うと球体は弾むように跳躍して逃れる。

 しかし、飛んだ先には律が待ち構え、上段から斬りかかり肉を抉る。勢いよく血飛沫が上がると大気を震わす雄叫びが響いた。

 落下してきた球体にすかさず肉薄すると優斗は体重を乗せて深く突き刺し、返す刀で斬り上げる。

 頭上に掲げた刀をさらにひるがえし一刀両断すると、球体は石榴ざくろのような真っ赤な中身を晒して動かなくなった。

「律!」

 優斗が声を張り上げると「はいは〜い」と軽いノリで岩まで走り寄り祝詞を奏上し札を貼り付ける。するとたちまち球体は消え失せた。

 優斗はほっと一息吐いて刀を納めると律の元へ歩を進める。

「いや〜お見事! この程度の奴じゃ俺達が共闘するまでも無いね。ホントはさ、もっとビビって足手まといになると思ってたんだ〜。化け物とはいえ、斬りつ
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